2157969 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

NIJIの夢

NIJIの夢

第3章:壮年期


第3章:壮年期 = 社会の厳しさ =


7回の手術を終えた我が子は定期的に通院はするものの、成長してから修正手術をする事となり退院した。
現在もこれからも彼にはいわゆる≪喉チンコ≫というものがない。
しかし、幸いにして言語障害は全く残らなかった。
病院側は奇跡的だと言った。

現在彼は高校生。
修正手術を何回かに分けて臨んでいる。
ここに至るまでの葛藤は、想像を遥かに超えていたが、ここには記さない。

手術費のメドが立ったところで、安定した仕事に就く必要があった。
とある会社の門を叩いた。

「次の方どうぞ、お入りください。」

会社の面接室である。
「履歴書に卒業高校の記載がありませんが記載もれですか?」
「高校は何処でした?」

担当官の質問に私は声が出なかった。

いま思えば、当然ともいえる質問に言葉が出なかったのである。

重ねて同じ質問が飛んだ。
しばしの沈黙の後、やっとの思いで小さな声が喉を突いた。
「中学校しか出ていません・・・。」

これまでの仕事は資格や免許、やる気さえあれば出来る仕事だった。
が、今回ばかりはつまづいてしまった。

「中卒ですか・・・」
担当官は困惑したようだった。
中卒の理由を話す訳にもいかず、長い沈黙の後、面接室を後にした。

自らの火傷、長男の奇病、殆んどの屈辱感は乗り越えていた。
しかしこれは、生まれて初めて味わった精神的屈辱感である。
33歳にして社会の厳しさが今さらのように身にしみた。

しかしこの屈辱感は、後にもっと大きなものとなるのである。

「どうしてここに中卒がいるわけ!」
若い女子社員の耳に突き刺さる言葉。
直接ではなく隣の同僚に話している。

入社2年目のことである。

守衛として採用された私は、1年後に守衛所閉鎖に伴って会社の中枢、資材部に配置されたのである。
毎日大量の資材を買い付けるため、常に計算業務がつきまとう。
計算違いがあると、伝票が次の人に回らない。
その最初の計算が私の担当である。

間違いは誰にでもある。
しかし、私の時にだけ「どうしてここに中卒が!?」
毎月の棚卸の度に味わう、何ともやるせない、また何とも言いようのない屈辱感であった。

私は考えた。
長い時間考え続けた。
生まれてから今までのこと・・・。

いじめられ続ける人生なんてありえない。
人はみな平等であり同じ権利を持っているはずだ。
何処かで人生のほこ先を変えなければならない。

逃げ出したら一生逃げの人生になってしまう。

そうだ!
今だ、今しかない!
そして、今いるこの場所から挑戦を開始しよう。
きっと何かが見つかる。
例え何も見つからなくても、今よりはずっと良いはずだ!

この時、私は働きながら学ぶという通信制高等学校に通うことを決めたのである。

そしてこの5年後、自らも考えの及ばぬ、思いもよらぬ展開となる。
そして、人生最大の意識転換が訪れることを、この時NIJIはまだ知らない。

NIJI 35歳の春。


第4章:その後〔生きる尊さ〕につづく。





© Rakuten Group, Inc.